野田佳彦首相の施政方針演説を聞きました。首相の国会演説は昨年の2回の所信表明演説に続くものですが、政治の基本方針というべき施政方針演説は初めてです。
中身は平板で政治哲学も含蓄ある表現もありません。ただただ、震災復興と原発問題、社会保障と税の「一体改革」、環太平洋連携協定(TPP)への参加交渉、米軍普天間基地の「県内移設」などの課題を並べただけです。国民の不信にこたえる姿勢はなく、具体的な説明もありません。自民党へのすりよりだけが鮮明な、問答無用の「暴走」です。大義のない「暴走」の、巻き添えはごめんです。
国民の不安は眼中にない
首相は就任直後昨年9月の所信表明演説では「正心誠意」国民の声に耳を傾け重責を果たすといいました。10月の2度目の演説では政治家としての「覚悟と器量」が問われていると強調しました。今回のキーワードは「決断する政治」といったところでしょうが、「決断」というにはおそまつです。
9月の演説で「脱原発」と「推進」の二項対立でとらえるのは不毛だといった原発については、夏をめどに新しいエネルギー戦略を取りまとめるとしかいいません。国民の不安に向き合い、願いに応えていく姿勢がありません。
10月の演説では、歳出削減と経済成長による増収で足りなければ「はじめて『歳入改革の道』がある」といっていた財政問題では、国会の定数削減などを増税の前提として持ち出したのに加え、「一体改革」の名による社会保障改悪、消費税増税の道に踏み出しました。消費税増税にはどの世論調査でも、過半数の回答が「反対」を表明しています。首相は、「高齢化社会」を“危機”とあおるだけで、国民の批判に対し説得力のある説明は語ることができません。
首相は、増税しなければ社会保障は維持できないと脅しさえすれば、国民が消費税増税を受け入れるとでも思っているのか。八(や)ツ(ん)場(ば)ダムなどムダづかいを拡大し、「一体改革」の名で年金も医療も介護も軒並み改悪しながら、社会保障財源だといって消費税増税を押し付けても、国民に通用しません。
もともと消費税は社会保障の財源としてはもっとも不適切な「最悪の大衆課税」です。消費税頼みをやめ、軍事費や大型公共事業などのムダを削減し、大企業や大資産家に応分の負担を求めるなど応能負担の原則で財源を確保すべきです。財界の要求だけに耳を傾け、消費税増税以外は考えることさえできないという首相では、政府を率いる資格が問われます。TPP参加や普天間基地「移設」でも、「日米同盟」を基軸にするとの考えから一歩もでないのでは、日本国民を代表する資格がありません。
数を頼みに突き進むのか
野田首相が演説でわざわざ自民・公明政権時代の福田康夫元首相や麻生太郎元首相の発言を引用し、「立場を超えて」協力をと呼びかけたのは、露骨なすりよりです。社会保障改悪も消費税増税も、自公の協力で数を頼みに押し通そうという魂胆(こんたん)は明白です。
たとえ国会では数を確保できても、圧倒的多数が反対している国民の支持が得られるはずはありません。野田政権が露骨に「暴走」すればするほど、国民との矛盾は深まる一方です。「暴走」に立ち向かう、世論と運動の出番です。