「電力不足」は政府の脅し
口実にした再稼働許されぬ
節電や電力融通で対応
政府やマスメディアは、原子力発電所の再稼働がなければ、今夏は深刻な電力不足に陥ると強調しています。関西電力の大飯原発3、4号機の再稼働をめぐっても「電力不足」論が口実に使われています。本当に電力は足りないのでしょうか。(柳沢哲哉)
もともと、政府の試算は需要を過剰に見積もったり、供給力を少なく設定するなど十分でない点があります。
民間非営利団体の環境エネルギー政策研究所(ISEP)が昨年10月25日に発表した報告では、「設備を再点検して供給力をチェックし需要も今夏(2011年)なみの節電をもっと楽な方法で実施すると、原発が全停止でも17%以上の余裕がある」としています。厳しい電力需要が予想される関西電力や九州電力においても、「節電の取り組みや中部電力、中国電力など他の電力会社からの電力融通により、電力需給は特に問題ないと考えられる」としています。
政府試算も余裕
政府は昨年11月1日、エネルギー・環境会議の電力需給に関する検討会合において、今夏の需給見通しを発表しています。原発の再稼働がなく、各電力会社の供給力に原子力を含まない場合、9電力会社全体で9・2%のピーク時電力不足になるとしています。しかしこの見通しは、節電などの対策をまったく考慮せずに試算されています。
一方で、最大電力需要が11年夏のピーク実績と同程度の場合の見通しでは、9電力会社全体で4・1%の余裕があるとしています。
さらに、ピーク時電力不足への対応として、省エネや電力供給拡大のため、5794億円の予算を組んでいます。この対策が進み効果を発揮し、昨年なみの節電をして、電力会社間での電力融通を行えば、電力不足にはならないことが政府の資料からも読み取れます。
大口需要抑制を
昨年は家庭で、暑くても我慢して冷房を切るなどし、健康を害する人も少なくありませんでした。企業でも冷房を停止したり、土日出勤や深夜シフトをするなど、労働環境に影響が出ました。
産業技術総合研究所の歌川学氏は、「節電の技術は日進月歩で、省エネ手段はたくさんあります。労働、生活環境を維持しながら電力だけを減らすやり方があります」と指摘します。
夏の電力使用のピークは昼間の短い時間です。家庭の電力需要ピークがくるのは夕方です。ですから、家庭は夏のピーク時需要の大きな要因ではありません。昼間の時間にたくさんの電気を使用している工場、オフィスなどの大口需要家が節電を行えば電力の使用を抑えられます。
冷房温度を高めに設定し、労働環境を悪くして我慢を強いるのではなく、工場、オフィスの設備を整えることが必要です。すぐに取り組めるものとして、明るすぎる照明の低下、自動販売機の停止や消灯、エアタオルの停止、電光広告看板の停止などがあります。
さらに、電力消費監視システムの導入、遮熱の工夫、空調機器のフィルターの清掃、古すぎる機器の更新や過剰な設備の廃棄を行えば、大きな節電の効果が見込めます。
節電の設備投資を行えば、企業にとってもコストダウンにつながります。歌川氏は、「空調機器の分散制御、電算機室の温度、湿度設定緩和などでピークを減らす手段があります。さらに10年以上前に製造されたエアコンを更新すると、電気代も大幅に減り、購入費も早期に回収できます」といいます。
自然エネに転換
電力不足の問題は、効果的な節電方法や他のエネルギーでどうまかなうべきかで解決するべき問題です。原発の再稼働と電力不足はてんびんにかけるものではありません。原発事故の原因も解明されていない状況のまま、電力不足という脅しまで使い政治判断で再稼働を押し付けることは許されません。
同時にエネルギー浪費型の社会から決別し、持続可能エネルギーに踏み出すことが必要です。自然エネルギーの本格的導入は、エネルギー自給率を高め、新たな仕事と雇用を創出します。原発の再稼働はそうした道をも閉ざしてしまうことになります。