2016年8月12日(金)
きょうの潮流
日本列島を移動する人の波。今年の夏もまた、お盆休みの帰省ラッシュが始まっています。家族連れで、あるいは1人で。ふるさとに向かう表情は柔らかい▼望郷。その思いが一貫して流れていたのが映画「男はつらいよ」のシリーズでした。この夏は寅さん役を演じた渥美清さんが亡くなってから20年。各メディアが特集を組み、改めて俳優渥美清の人間像や寅さんの魅力に光が当てられています▼全国を旅しながら、切ない出会いと別れをくり返していく寅。そこには常に、人と人との結びつき、人と地域のつながりが細やかに描かれていました。山田洋次監督自身、それを全48作のモチーフにしてきたと語っています▼特集の一つに渥美さんがつくった俳句をもとにして彼の人生を振り返る番組がありました。“風天”の俳号で詠んだ270首もの句。「麦といっしょに首ふって歌唄う」「お遍路が一列に行く虹の中」「赤とんぼじっとしたまま明日どうする」▼人や生きるものへの情愛、心に残った風景が浮かび上がるような句。渥美さん=寅さんが大切にしてきたもの。山田監督は「美しい文化は美しい社会からのみ生まれる」といいます▼この20年、日本は大都市圏への集中が進み、地方はますますさびれています。人間関係も希薄になり、格差や貧困をひろげる社会は憎しみや差別を助長しています。今もみんなの心のなかで旅路をつづけている寅さんなら、きっとどこかで誰かに語りかけているはずです。「故郷ってやつはよ…」と