主張
マイナンバー運用
なし崩し拡大はあまりに危険
日本に住民票を持つ全員に12桁の番号を割り振り、国が税や社会保障の情報を管理するマイナンバー制度で、住民にたいするマイナンバー(個人番号)カードの交付が始まってから今月で1年になります。安倍晋三政権はカードの“利便性”の宣伝に力を入れ普及を促しますが、希望者数はほとんど頭打ちです。この仕組みが、住民にとって不必要で、不安が強いものであることを浮き彫りにしています。それなのに、政府はマイナンバーを使える対象を広げることばかりに熱を上げています。国民を置き去りにした前のめり姿勢は、きわめて問題です。
普及促進へ税金を次々と
マイナンバー制度は2015年10月に施行され、住民に番号を通知する紙製のカードが約5900万世帯に向けて発送されました。16年1月から本格運用が始まり、税の手続きの際などに使えるようにしたほか、取得を希望する人には個人番号、顔写真、氏名、住所、生年月日などが記載されたプラスチック製のマイナンバーカードが発行されるようになりました。
しかし、さまざまな事情で住民登録した住所に不在だったなどの理由で、番号が通知されていない世帯が100万件以上残されたままです。マイナンバーの発行業務でも全国的に管理・運営するシステムのトラブルがたびたび発生し、実務を担う地方自治体の窓口では混乱したところも少なくありません。多額の税金を投じたシステムが動きだした途端、不調に陥ったこと自体、マイナンバーの仕組みへの疑念を深めるものです。
カードの希望者も政府の思惑通りに広がりません。16年度末までに3000万枚の発行を見込みましたが、カードを取得した人は3分の1にも届かず、国内人口の8%程度と低迷しています。マイナンバーカードは身分証明の他にほとんど使い道はありません。それどころか、他人に見せてはならない個人番号と顔写真などが一つになったカードを持ち歩くことの方が、個人情報を保護する点からすれば、かえって危険です。カード申請が頭打ちなのは、国民が制度の利便性を感じず、むしろ不安が大きいことの反映といえます。
しかし、安倍政権は推進へテコ入ればかりに熱心です。17年度予算案では、総務省がカード500万枚の追加発行など「利活用推進」へ約230億円も計上しました。厚生労働省も、マイナンバーを医療分野で利用することをにらんだシステム構築などで240億円余を盛り込みました。不安にこたえずに、理解や納得もないまま、次々と税金をつぎ込み、なし崩し的にカードの利用分野を広げることは、国民の願いに逆らうものです。
国民への押し付けやめよ
一昨年125万件の個人情報が漏れて大問題になった日本年金機構でも、1月からマイナンバーが使われるようになったことに国民は危惧を抱いています。住民税の徴収事務をめぐり地方自治体が事業所に従業員のマイナンバーを知らせるやり方にも自治体・住民の双方から情報漏えいのリスクを指摘する声が上がっています。
マイナンバーは、徴税強化と社会保障費抑制の手段にしたい国・財界の都合で導入されたものです。国民に弊害ばかりもたらすマイナンバーは中止し、廃止へ向け見直すことが必要です。