主張
「共謀罪」法案攻防
強権で「監視社会」進める異常
憲法が保障する思想・良心の自由を侵害する「共謀罪」法案をめぐる自民、公明の与党と日本維新の会の強権的な国会運営は、異常という他ありません。審議のたびに新たな疑問や論点が出てくるのに金田勝年法相の迷走答弁などで議論がかみあわないまま衆院法務委員会で強行採決し、野党の反対を無視して衆院本会議を開き、可決を押し切る―。「内心」を処罰する重大法案を、乱暴極まるやり方でしか押し通せないこと自体、「共謀罪」法案の危険と矛盾を示しています。もの言えぬ監視社会づくりを推進する安倍晋三政権の暴走を阻むたたかいが急務です。
異論封じの姿勢際立つ
与党や維新は法案の衆院での審議は尽くされたといいますが、そんな言い分はとても通用しません。法案の実質審議が4月中旬から委員会で始まって1カ月―。はっきりしてきたことは、政府のいうような法案導入の理由は全くなく、むしろ「心の中」を取り締まる法案がもたらす危険な実態です。
政府が持ち出した「テロ対策」のためという口実は、とても成り立ちません。もともと法案の原案に「テロ」という文言すらなく、国会提出直前につじつまを合わせるために「テロ」を書き込んだという経過からも、その主張は破綻していました。法案が対象とする277の犯罪に「テロ」と無関係のものが多く含まれていることについて、政府は審議の中でも説明できません。対象犯罪の恣意(しい)的な選び方にも批判が集まっています。
テロ対策に不可欠としていた国際組織犯罪防止条約(TOC条約)加盟のためという主張は、そもそも同条約の目的は「テロ対策」でなく、日本政府もかつて同条約に「テロ対策」を盛り込むことに異議を唱えていたことと矛盾します。そのことを追及された政府はまともに答えられませんでした。「テロ対策」の名で法案の本質をごまかすことは、もはや許されません。
政府は「一般人は関係ない」「内心を処罰するものでない」と繰り返しましたが、法案に歯止めがないことは浮き彫りになるばかりです。すでにいまでも環境保護などを訴える市民まで不当に調査・監視している警察が、「共謀罪」によって、さらに大きな捜査権限を手にすることで、「国民監視社会」への道が加速する危険があることは、あまりに明白です。
国連人権理事会から任命された特別報告者が、「共謀罪」法案がプライバシーに関する権利、表現の自由への過度の制限につながる可能性があると警告する書簡を安倍政権に出したことは重大です。国内外から相次ぐ批判を無視し、異論を封じて数の力で「共謀罪」法案を押し通す安倍政権と与党、維新には一片の道理もありません。
過酷な歴史の再来許さず
戦前の治安維持法で弾圧された人や家族たちが法案反対を懸命に訴えているのは、思想・良心を取り締まる法律が一たび作られれば、国家権力によって乱用され、一般市民も容赦なく拘束、逮捕、投獄されることを、身をもって知るからです。そんな過酷な時代を再来させてはなりません。
憲法9条改憲を鮮明にした安倍政権による「戦争をする国」づくりと、深く結びついた「国民監視社会」づくりを阻むため、「共謀罪」法案を廃案に追い込むたたかいをさらに強めることが必要です