パリ協定
2017年6月3日(土)
主張
米のパリ協定離脱
人類への責任放棄 通用しない
トランプ米大統領が、地球温暖化対策の2020年以降の枠組み「パリ協定」からの離脱を正式に表明したことに、世界中の市民や国々などに怒りと失望が広がっています。
温室効果ガスの排出量が世界第2位の米国は、地球温暖化対策に大きな責任を持つ立場です。温暖化の深刻な脅威に国際社会が一丸となって立ち向かおうとするときに、その流れに背を向けるトランプ政権の姿勢は、現在の人類と将来世代に対する重大な責任の放棄です。
すべての国が削減行動
「パリ協定」は、国際交渉を積み重ね、「先進国」と「途上国」が対立を乗り越え、すべての国が排出削減に取り組むとして2015年に採択された条約です。世界の気温上昇を産業革命前から「2度」を十分に下回る水準に抑える(1・5度もめざす)ために、化石燃料から脱却し、今世紀後半には人間活動による温室効果ガスの排出を実質ゼロにする、などを目標にしています。16年9月には二大排出国の米中がそろって締結し、11月に発効しました。日本も含め現在147カ国・地域が批准しています。
このまま温室効果ガスの排出が続けば、今世紀後半には気温上昇は4度以上になり、豪雨や巨大台風などの異常気象、海面上昇、食料不足、生態系の喪失など人類の生存が危機を迎えるというのが世界中の科学者からの警告です。米国以外のG7(主要7カ国)首脳は「パリ協定」について「迅速に実施する」と表明し、大排出国の中国・インドも協定順守を言明しています。トランプ大統領の離脱表明は「米国第一主義」の危険を改めて示しています。
トランプ大統領は離脱表明に当たって「(協定は)米国の経済を弱らせ、労働者をくじく」などと述べましたが、実態とかけ離れた主張です。「パリ協定」の流れにもとづき、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換は米国でも進み、太陽光発電関連だけで26万人以上が働き、15年には石油、ガス、石炭関連の雇用を上回りました。風力発電なども含む再生エネ全体では77万人以上が働いている、との統計もあります。今年1月には米国内の630以上の企業や団体が「パリ協定」順守を求める要望書を提出し、1000を超える企業が「低炭素経済の構築」を訴える声明に署名しています。トランプ大統領の離脱表明は米国経済をも損なうものです。
「協定」の枠組みは続く
排出大国である米国の離脱による地球温暖化対策への影響は重大ですが、すでに発効している「パリ協定」の枠組みは崩れません。欧州連合と中国は「パリ協定」は「歴史的成果である」とする共同声明をまとめ、その全面的な履行をうたっています。米国が離脱したとしても、低炭素社会への流れは止まりません。トランプ大統領が大義なき行動をとり続けるならば、米国の国際社会からの孤立は必至です。
日本は世界第5位の排出国であり、地球温暖化対策に大きな責任を持っています。日本政府は米国に働きかけるとともに、日本自身の削減目標の引き上げや対策を強化し、締約国として「パリ協定」の目標達成に全力をあげることが求められています。