2015年7月1日(水)
“典型的な武力行使一体化”
大森元法制局長官が告発
戦争法案の「後方支援」 法律専門誌で
元内閣法制局長官の大森政輔氏が、戦争法案による米軍への支援活動の拡大に対し、最新の法律専門雑誌(『ジュリスト』7月号)で重大な告発を行い、法曹界に波紋を広げています。同誌掲載の、長谷部恭男早稲田大教授との対談で述べているものです。
大森氏は、1998年のガイドライン・周辺事態法取りまとめに、法制局長官としてかかわった、政府側の当事者です。
集団的自衛権容認に踏み込んだ昨年7月の閣議決定から戦争法案策定について大森氏は、米軍などへの自衛隊の「後方支援」をめぐり安倍政権が、「非戦闘地域」という活動地域の制限を撤廃し、自衛隊による弾薬提供、戦闘発進中の戦闘機への給油を容認するなど、支援活動を大きく拡大する動きだとして厳しく批判しています。
一線では駄目
大森氏は、「後方支援」に乗り出した周辺事態法制定の過程で「非戦闘地域」という概念がつくられた経過を紹介。このなかで、“戦闘現場”と“非戦闘現場”を観念的に分けることは可能だが、戦闘の現場と本当に一線を画すためには「実は一線では駄目」という議論がなされたとしています。
「言葉を換えると二線を置くのだと、その間にバッファーゾーン(緩衝地域)を置いて、戦闘現場の場所変動が非戦闘現場における後方支援活動に直ちに影響しないような」枠組みをつくるとされ、その法的解決方法として「非戦闘地域」(当時の後方地域)概念が生まれたとしています。
大森氏によると、「非戦闘地域」とは「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域」とされました。こうした一定期間、戦闘の可能性がない地域を設定することによって、戦況の変化で一瞬にして戦闘に巻き込まれることがないようにしたのです。
大変な事態に
大森氏は、安倍政権がこれを廃止して「戦闘現場」でなければよいとする動きについて、「余裕がなくなるから、戦闘地域の中で立ち往生したら大変な事態になる」と警告しています。
さらに、自衛隊による弾薬提供や戦闘発進中の戦闘機への給油など支援内容を拡大する動きに対しては「とんでもない」と指弾。周辺事態法で支援活動メニューを列記した「別表」に、「備考」として武器・弾薬の提供や、戦闘発進中の戦闘機への給油・整備を行わないと明記され、この過程で「武力行使の一体化として、はねるかはねないか、喧々諤々(けんけんがくがく)の議論」があったとしています。
武器弾薬提供などの実施を要求する外務省サイドに対し、「(大森氏から)武力行使と一体化する類型だから、それを断定して追い払えと(担当参事官に)言った」と述べています。その結果、“米軍の需要がない”として、これを明文化しないことに落着しました。
外務省は「憲法違反」と結論づけられることを嫌い“需要がない”として先送りしながら、今回は“ニーズを確認した”といってそれを「復活」させる―。大森氏は、この動きを批判し、弾薬提供や発進中の戦闘機給油は「一番典型的な(武力行使の)一体化の事案」と指摘しています。
「武力行使の一体化」禁止のルールには、武力行使と不可分である兵たんを許容する本質があります。他方で、“兵たんならば何でも可能とはしない”制約となる一面があります。「一体化」禁止ルールを変質させ、「戦闘現場に行かなければ何でもできる」と、無制限に兵たんを拡大する重大問題が戦争法案に盛り込まれたことが、大森氏の告発で明確になっています。